「傲慢と善良」は僕に人間性を教えてくれた

注意

この記事は、辻村深月さんの「傲慢と善良」についての書評記事です。前半はネタバレはありませんが、後半からはネタバレを含みます。ネタバレが嫌な方は、前半だけお読みください。

単純に、おもしろい

この本、少し分厚くて読むのに八時間かかりましたが、おもしろすぎて一気に読んでしまいました。昼食をとることも忘れていましたが、それほどに面白かったのです。

さすがと言いますか、文章がとてもきれいで、引き込まれる文章です。
後半にも書きますが、言葉を使ったひっかけなどもあり、映画やドラマでは表現できない文章の美しさや面白さに気づかされました。

この本はただの恋愛小説ではありません。深月さんならではの、エッジのきいた作品なっています。
読み終わった後は自分の人生について振り返ることになります。

恋愛小説の皮をかぶった、社会風刺作品

この小説の売り文句は、

「圧倒的な”恋愛”小説」

というものですが、ただの恋愛小説ではないと気付きました。
この作品に登場する人物は全員が「醜い」一面を持っています。
それこそが人間性なのだと教えてもらいました。

読む前は「傲慢と善良」という言葉に、あまりピンと来ていませんでした。
しかし読み終わった後に、自分の人生を「傲慢」と「善良」という言葉で考え直すことになりました。
そのくらい力のある言葉だったのです。

その選択は自分がしたもの?

この本を読むきっかけになったのは、友人の言葉です。
僕が自分の人生に対しての結婚観を語っていた時に、「それなら面白い作品がある」と教えてもらったのがこの本です。

この本の中には様々な人の結婚観や人生観が出てきます。
それは時に歪んでいますが、本人たちはそれに気づきません。そもそも結婚観のようなものに絶対的な答えはないのですが。
そのことに気づけたのもこの本のおかげです。

自分の人生のなかの選択は、自分がしたものなのか?と読み終わった後に自分に問いかけました。すると、意外に重要な選択も、他人に影響されていたことに気づきました。

※ここからネタバレありです

自分につける点数は?

真実を探す架の行く先の一つに、真実の行っていた小野里結婚相談所があります。
そこで出てくる言葉の数々に、僕は圧倒されました。

「婚活に付きまとう、『ピンとこない』って、あれ、何なんでしょうね」

ーーー

「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」

ーーー

「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです」

辻村深月「傲慢と善良」P111~112

このやり取りに僕はドキッとしました。
僕は学生なので婚活はしていませんが、彼女がほしいと思ったときに、
「いい人なんだけど、なんかピンとこないなぁ」
と思っていたことがあります。

それをはっきり日本語にしたときに、「自己評価額」という言葉になると考えると、途端に恥ずかしくなりました。

僕は自分のことを謙虚だと思っていたからです。
しかし相手に「評価額」をつけていたと思うと申し訳なくなりましたし、自分の自己愛の強さにがっかりもしました。

これがこの小説のキーワードでもある「傲慢」の一つです。
人は自分が思っているより傲慢で、自己愛が強い生き物なのだと感じました。

自分はいいことをしているという勘違い

架が真実の親の家に行った時の話です。

架と真実の両親の会話の中で何回も感じることがありました。
この人たちは、自分がいいことをしていると勘違いしている。そしてその勘違いに気づこうともしない。ということです。

真実の両親は、真実を過保護に育てます。そして自分の属するコミュニティの範囲で物事を考えます。

本人からすると、その行為は「善良」以外の何物でもないのですが、客観的にみると、「傲慢」以外の何物でもありません。

そしてもう一つ気づくことが、真実の選択は、両親にゆだねられていたことです。

ここで僕は自分の人生を振り返り始めました。

僕が選んだ選択肢はだれかに操られた結果なのか?と。
考えれば考えるほど、自分の人生って何なんだろうと感じました。しかしそれは悪い意味ではなく、いい意味なのだと思います。
「これから、自分が選択することの意味を考えよう」
そう思うことができました。

真実の正体

真実という名前の女性がヒロインなわけですが、読み方は「マミ」です。
しかし僕はたまに「シンジツ」と空目してしまうことがありました。

これが深月さんの狙っていることだと気付いた時には鳥肌が立ちました。
確実に狙って名前を付けています。

いるはずもない真実の姿が現れるのを、奇跡のように待ち続けた。

辻村深月「傲慢と善良」P198

この文章、真実を「マミ」と読むと、悲哀漂う男性の姿が想像できますが、真実を「シンジツ」と読むと、実体のないナニカを追い求める男性の姿が想像できます。

これが深月さんの技なのだなと思いました。
これに気づいてから、はっとする場面がいくつもありました。

シンジツを追い求めるのは正しいことなのか?
シンジツとは、人によって違うものである。

といったメッセージが込められているように感じました。

一度読んだけどこれに気づいていなかった人がいましたら、ぜひ読み直してみてください。
新たな発見があります。

最後に

この本を読んで、よかったと思います。
自分の価値観が必ず正しいという「傲慢と善良」に気づけたからです。

将来何かの決断を下すとき、僕は必ずこの本のことを思い出すでしょう。